Article 04

エクスペンディオ・ジ・マイス

Expendio de maíz

MAP

知らない土地で夕飯を食べるのが苦手だ。夜に一人でレストランで食事をする際の、コースとかお酒とか(下戸なので)諸々の作法を恐ろしく面倒に思ってしまう。ただ、食から得られる異文化体験はとても重要なのだと頭では理解している。その点、メキシコではほとんどの食事を路上の出店で済ませることができて楽だった。タコスをお腹いっぱいに食べても500円以下だし、タコスと一言でいっても地域や出店ごとに調理法・具材が全く異なり、飽きることもなかった。

そんな中、クラテルのメンバーに一箇所だけお勧めのお店を教えてもらった。メンバーのアンドレスに「そこでは何が食べられる?」と聞くと「変なもの、でもすごく美味しい」と謎の返答をもらう。2日後、美術館を巡って遅くなってしまいグーグルマップが示す閉店時間ギリギリで店に到着した。そこは確かに異様な雰囲気の店だった。店全体が窯のようにごつい石で覆い尽くされたインテリアで、店の屋内はキッチンで占められ、客席は路上に並べられている。

曖昧な笑顔を交わして、とりあえず席に座る。すると、店員の女性が英語ができる?と確認して「もう残ってる具材が限られてるから、その中から作れるものをいくつかサーブするのでいい?」とのこと。正直何を食べられるのか全く理解できてないのでむしろありがたい。少し待つと、以前に出店で食べたタコヨ(トルティーヤに豆とチーズが練りこんであるタコスに似たもの)と見た目が近いもの、豚肉をフルーツと一緒に煮込んだもの、果物の皮につがれたフレッシュジュースが運ばれてきた。食べてみると、大雑把に言えば今まで出店で食べたものの延長にあるけれど、どれも味付けが少し薄く、代わりに穀物の風味がしっかり感じられる。すごく美味しい。

黙々と食べていると、急に大男が隣に座りあまり得意そうではない英語で話しかけてきた。彼はヘズースと言う名の、この店を立ち上げたメンバーの一人だった。聞いてみると彼はこの店を始める前に、メキシコ全土を貧乏旅行しながら各地の食材や調理方法をリサーチして廻っていたらしい。それを経て、今の店では自分が自信をもって使える食材だけを厳選しながら、それでつくれるメキシコ各地の郷土料理を提供しているという。「素材の味がすごい」と伝えると「そう作ってるから」と誇らしげに返してきた。当時は「本当に金がなかった。あったのはこのでかい体だけ」と笑いながらその旅の思い出を語ってくれた。その経験から「旅している人を見ると構いたくなる」と言って、ひとりでいる自分に声をかけてくれたようだ。それならと、これから訪れようと思っているメキシコの様々な場所について色々と教えてもらった。

その日は(結局シティ滞在中に三度訪れた)営業が終了した後も、ヘズースと初めに注文をとりにきてくれたマヤも加わり三人で遅くまで話をした。彼らは賄いを食べながらメスカルを飲んだ。こちらにはシナモン入りのコーヒーをついでくれた。僕らはお互いの国の言葉を教えあった。このようなやり取りは、旅行中に現地の人と交わす中では恒例だと思う。ただ、意外と発見も多い。というのも、すんなり日本語に翻訳できるときではなく、翻訳に苦労するフレーズに出会った際に、それぞれの国特有のコミュニケーションの所作に気づかされる。このときは「Disfruto realmente estar contigo」というフレーズ。口説き文句や友情の表現にと教えてもらったけど対訳に苦労した。

紹介記事
https://local.mx/gastronomia/comida-popular/expendio-de-maiz/

2018.09.10

サン・クリストバル・デ・ラス・カサス

San Cristóbal de Las Casas